梅﨑和子さま

梅﨑和子さま

海の精大島製塩場 来訪日:2010.5.17

「重ね煮」で有名な健康料理研究家・梅﨑和子先生。
重ね煮は、野菜のうまみを引き出す料理法で、皮むきもアク取りもだしも必要ないのに、それだけでおいしい料理になると言います。

もともとは病院の栄養士だった梅﨑先生ですが、栄養学に疑問を感じて食養(マクロビオティック)を学びました。そして、子どもを健康に育てたいというお母さんたちのために、よい母乳を出すための料理教室を始められたのです。今でも料理教室には、アトピーやアレルギーのお子さんをもつ方が多くいらっしゃるとのこと。 毎日続けることのできる家庭料理を通し、食養の良さを伝えていこうとされています。

今回は、その梅﨑和子先生と、いんやん倶楽部の西川明美社長が大島製塩場にいらっしゃいました。

いい“塩”が野菜の持ち味を生かす!

私たちの体を作る3本柱は、血潮のもとの「塩」、いのちのもとの「水」、身体を作るもとの「穀物、豆」。
なかでも、一言に“塩”と言っても、値段がずいぶん違うので、いい塩を選ぶのに躊躇してしまうかもしれません。でも、コーヒー1杯500円もする時代です。それをたった2回我慢したら、いい塩でも十分に買えるもの。 1袋でどれだけもつかを考えたら、全然高いわけではありません。

塩は摂りすぎてはいけないと言われている時代ですが、塩がないと命は養えないし、私たちの体を作る塩はいい塩でなくてはなりません。体にいいものを選択する時には、どこか価値観を変えなくては、踏みこめないはずなんです。

お塩って野菜の持ち味を生かすもの。特にいい塩はそうです。
海水100%で昔ながらに近い製法で作っているのが「海の精」。私の料理“重ね煮”にいい塩は欠かせません! だから、にがりを添加した加工塩ではなく、買うんだったらいいものを選びましょうと料理教室でも教えています。
まずは、塩の味を比較してもらいます。普段比較することはあまりないものだけど、比較して自分の舌で納得してもらうのが一番。それで、より値段だけじゃなく違いがあるんだなと納得することができるんです。

お花の先生か料理の先生になるはずが―。

「栄養士っていう仕事があるよ」という話を聞いて、もともと食いしん坊だった私は、すぐに栄養士になろう! と決意し、中学から食物科に行って栄養士を目指しました。

その後、集団給食や病院での栄養士の仕事をしていた23、4歳の時。1970年代にはまだ珍しかった糖尿病指導を担当することになりました。そこで、糖尿病の患者さんをお世話するにあたって、「有害食品研究会」というところに出入りし始めたことが、私の人生を変えたのです。
「病院の食事じゃ糖尿病は治らないでしょ?」
いきなり言われ、返す言葉がありませんでした。それもそのはず、糖尿病教室では、「糖尿病は治らない。合併症を起こさないために、食事管理をしっかりしましょう」というのが前提だったからです。

けれど、せっかく指導するなら治る食事を! そう思い、栄養士の仕事をしながら、夜は正食協会で“玄米菜食”の勉強を始めたのでした。

糖尿病が治った?!

まだ食養もブームになる前だったので、どんなものなのかまずは自分で試さなきゃと思い、「これが植物性100%の食事です」と院長先生や先生たちに見せながら、玄米のおにぎりを持って行って食べていました。
「そんな変なことしたら倒れるかもしれないから、ベッド空けとかな。」とか冗談を言われながらでしたが、3人分の仕事を一人でやっているからてんてこ舞いなはずなのに、とても頭がクリアになって、ストンストンとこなせるようになったのです。

当時、若い人だったら糖尿病も治るかもしれないということで、親子で入院されていた息子さんの方にさっそく玄米菜食を試してみました。すると、自然と体調もいい感じになり、その後薬もすべてとれ、3年後にはなんと完治してしまったのです。

糖尿病でも治るというのを自分の目で見ると、そのすごさに、もっと勉強したいと思いました。そこで、正食協会に行くと、食養の大家・小川法慶先生(重ね煮の考案者)のところに放り込まれました。自宅に住み込みなので、寒い寒いときにも朝5時に起きてトイレ掃除…。それに、ぽんと台所を任されてしまったりで、修行のような3年間でしたが、そこで連れ合いに出会うという素晴らしいこともありました。「海の精」を使い始めたのもちょうどこの頃です。

お鍋ひとつでラクラクの「重ね煮」

そこでは、“手取り、足取り”というわけではなく、すべて“口”で教えられました。それでいつしか身につけたのが、「重ね煮」という料理法。 土の中に育つ野菜は上に、土の上に育つ野菜は下にと、自然界の天地と逆の順に、鍋に重ねていくと、野菜のエネルギーが調和して、素材本来のうまみが引き出されるというもの。
皮むきもアク取りもいらず、だしもいらないという手間いらず。けれど、はじめは、重ね煮の良さも、どういうふうに体にいいのかもよく分かりませんでした。

その素晴らしさに気づかされたのは、子どもが生まれてからのこと。 実は、子どもがアトピーだったのです。その当時、アトピーは、時代を映す先端の病。けれど、絶対に母乳で育てたい! いいおっぱいを出すのには、いい食事をしなくてはと思ったのです。

そこで相談したのが、母乳育児で有名な山西みな子先生でした。
すると、「油が多いんじゃない?」と言われたのです。だいたい油で炒めて作るのがマクロビオティックだから、油がよくないなんて気付きもしませんでした。
その時、あの“重ね煮”が使えると思いついたのです。そう! 重ね煮は一滴も油を使わないでもできるのです。

“健康”は毎日の食卓から

26、7年前の1980年代。まだアトピーが話題になり始めた時代だったので、その当時使える本がほとんどありませんでした。そこで、授乳期の若いお母さんたちみんなで何かやろうと立ち上げたのが「いんやん倶楽部」。
さっそく、アトピーの子どものための“画期的に使える”本を模造紙で手づくりしました。それを実践すると、自然と子どもたちのアトピーが治ってきたのです。その結果、日本で最初のアトピー教室として取材が殺到したのでした。

毎日の食卓にあるものをミックスしていくと、野菜のやさしい味が出てきます。体にいい感じとか、素材の味がするって言うのは、要はおいしくないっていうこと。おいしくなきゃ、楽しくなきゃ続きません。重ね煮は、手間ひまかからないのに、とてもおいしくて、油のなし・ありも選べます。応用ができるという意味で、マクロビオティックの料理を一つ進化させたと思っています。

母親は子どもの命を預かっています。子育てをやっている人たち、自ら体験しながら良さを分かっている人たちだからこそ、説得力があるし、次の世代に伝えられるものがありました。私たちの“母親目線”。今もその視点を失わないように、家族の健康を日々の食卓で培っていくお手伝いをしていきます。

見て納得!「海の精」

おいしい塩というのは、味のバランスのとれた塩のこと。
海からくみ上げているところから塩ができあがるまで、とても丁寧な過程を経て作られているから、この味に仕上がっているんだと実感することができました。
にがりを含む塩は少し置いた方がまろやかになると聞いたことがありますが、出来たての塩は、びっくりするほどしっとり感があって、“海そのものを結晶化したものをいただいている”という感じがひしひしと伝わってきました。

出来たての塩は本当にしっとりしています。これも見学に来てならではの楽しみです。

海の精はにがりも全然違います。マグネシウムだからすごい苦いんですが、あとを引く苦味がとてもおいしかったです。
にがりと塩をどう分けるかわかったうえに、にがりも無機成分のバランスによって味が全然違うことがわかりました。だから、いつもお豆腐づくりするとき、手についたにがりをいつもぺろぺろしちゃうんだと思います。

また、製塩場内はいたるところが清潔で、皆さんの知恵に感動しました。塩の機械も換気用の木のフードもすべて手づくりで、塩の性質を知り抜いているからこそできること。設備からも、安全でいい塩を作ろうという熱い想いがあふれていました。

にがりを味見する梅崎先生

梅﨑和子(うめさき かずこ)プロフィール

病院栄養士を4年務めたのち、栄養学に疑問を感じ、陰陽調和の料理を学ぶ。1987年、食と健康を考える仲間とともに、いんやん倶楽部を設立。「アレルギーのための料理教室」「健康料理教室」など東京、大阪、神戸にて開催。安全な素材を生かした加工食品の開発・研究とともに、北海道から九州まで講演や料理教室に奔走中。

著書
『一汁一飯のすすめ』(家の光協会)
『旬のおやつ』(クレヨンハウス)
『おばあちゃんの手当て食』(家の光協会)
『旬をまるごと生かす食卓』(講談社)
『梅﨑和子の陰陽重ね煮クッキング』(農文協)

インタビュアー:下田ちひろ(海の精)