小峰敏宏さま

小峰敏宏さま

訪問日:2010.1.29

1988年の開店時から野菜に力を入れてきたというフランス料理店『ラ・ターブル・ド・コンマ』。お店のオーナーシェフ・小峰敏宏さんが作る野菜フレンチは何度も雑誌で取り上げられ、また、レシピを紹介した著書は何冊も刊行されています。日本で“野菜フレンチ”というジャンルをつくりあげたのが小峰シェフです。

今でこそ、料理メニュー名に生産者の名前を書き添えることは珍しくなくなりましたが、ラ・ターブル・ド・コンマでは20年前からでした。

おいしい料理は生産者と信頼関係があってこそ

「素材を選ぶときには、質の良さもさることながら、素材に対する考え方や取り組み方など、作り手のポリシーに共感できるかどうかを大切にしています。生産者の顔が見えてこそ、愛着も高まり、どのように手を加えれば素材の良さが生かせるか明確になります。野菜やフルーツが届くたびに宝物を開ける思いです」と小峰シェフ。

いい素材があると、直に生産者に会って話しを聞き、畑を目で確認し、取引をお願いしてきたといいます。

野菜でフルコース!

ラ・ターブル・ド・コンマのコースはいろいろありますが、一番人気は野菜が主役の「野菜のコース」! 小峰シェフが最も力を注ぐ、旬の野菜を使ったとっておきの料理です。

ことフランス料理というと野菜は生でサラダ、または肉料理の付け合わせにじゃがいもか人参が添えられるという場合が多いもの。どうして野菜を主役にしたコースを考えられたのかおたずねしました。
「フランスにいた時、勤務先のシェフの実家によばれることがよくありました。そうすると野菜料理が多いのです。春ならアスパガラスがドーンとお皿にあふれるように盛られていたり。ヨーロッパの旬の野菜のおいしさは、それはこたえられないものでした。その時に、野菜の力強いおいしさに目覚めたのです。」

料理名には野菜や果物の生産者の名前が

日本に戻った小峰シェフが考えたのが野菜の長所を最大限に生かした料理。例えば「千葉・大木さんのサツマイモの冷たいポタージュとタルトレット黒トリュフ風味、ポルト酒風味のソース」や「栃木・秋山さんの白菜のブレゼ、ミモレットと黒トリュフを添えて」など。

「栃木・秋山さんの白菜のブレゼ、ミモレットと黒トリュフを添えて」は、白菜を四分の一量ざくっと使い、オーブンの上火で時間をかけて水分を抜くように加熱。塩をふり、チキンブイヨンを何度もかけて味を重ねていったボリュームある一品。

中でも、白菜のブレゼにはファンが多いと聞きます。白菜を四分の一量を使い、オーブンで時間をかけて加熱、塩をパラリ。チキンブイヨンをかけて、さらに加熱。白菜の表面がなんとも甘く、まるでキャラメルのように香ばしい。そして中にいくほどトロトロに。味を少しずつ重ねていった白菜が見事!主役級となったボリュームある一品

「白菜はくせがありませんが、火を通すと水分が出てきます。それを丁寧に煮つめてエッセンス状態になった白菜の汁で濃いソースを作ります」。これにさらにブイヨンの風味が加わり、リッチな味のソースに仕上がるのだとか。手間ひまかかったプロ仕事。この白菜生産者の秋山さんとはすでに18年のおつきあいだそうです。

白菜も九条ねぎも小峰シェフのマジックが!

この日の野菜コースには京都・九条ねぎを生かしたプレートも登場。ねぎがくたっと甘く柔らかに仕上げられ、その上にサイマキエビ、ホッキ貝、生のトリュフにイタリアンパセリやフェンネルなどのフレッシュハーブが加わり、見た目も香りもとっても華やか。

小峰シェフ・ワールドです。

ときどき、生産者がどんなふうに料理されているか知りたくて、全国から食べにきてくれるとか。信頼のおけるパートナーシップがしっかり結ばれているのです。

九条ねぎが柔らかで甘く味が濃厚。サイマキエビやホッキ貝、トリュフ、ハーブと複雑な味の組み合わせを楽しむ小峰シェフの野菜フレンチ。

素材のうまみを最大限に引き出すのは塩

そんな素材にこだわる小峰シェフが大切にしている調味料が塩。「素材のうまみを最大限に引き出すのは塩」と小峰シェフ。「素材が生きるような塩の使い方を昔からずっと心がけてきました」。海の精はオープン当時から愛用とか。

「青ラベル(「ほししお」のこと)はおいしいですね。ここぞと決めるような料理の時に、ふりかけて使ったり、マリネにもよく使います。赤ラベル(「あらしお」のこと)は温野菜のうまみを生かすのに欠かせません。塩ゆでやグリルの塩はこちらを使っています。」
野菜の甘みを引き出すためには、塩味がないことには、うまさが出てこないといいます。

「塩をなめると、その海の香りと味がわかります」

海の精なら、伊豆の海が。ゲランドならマルセイユの海の味と香りが。泳いだ時に味わった海水の味が、塩をなめることでよみがえると小峰シェフ。

「ちゃんと作られた塩なら、海水のうまみが塩に出ていることがわかるのです。味の差がはっきり違う。だからこそ、塩選びは重要です。いい塩が素材を引き出し、引立ててくれますからね。」

デザートまで野菜!? 旬の味を楽しんでほしくて

小峰シェフの料理はデザートにも野菜が登場します。「ごぼうのムースとごぼうと木の実のタルト、ごぼうのシャーベット添え」という楽しいごぼう三昧だったり、または、ごまづくしだったり、お客さまをびっくりさせるのが上手です。

素材を重視する小峰シェフの料理。とくに野菜は旬を味わってもらいたいことから季節限定メニューが多いのも特徴。1ヶ月続くメニューもあれば、1週間で終わってしまう料理もあります。
「自分の家のように毎日、来てもらえると嬉しいです(笑)」

小峰敏宏(こみね としひろ)プロフィール

1956年埼玉県生まれ。
調理師学校卒業後、小川軒が経営する「ブルック」と神戸ポートピアホテル「アランシャペル」に5年ずつ勤務し、クラシックな洋食と当時最先端のフランス料理のふたつを身につける。シャペル時代に担当した仔鴨のテリーヌは『グルマン』86年度版で絶賛を浴びた。1986年渡仏して、トゥール「ラグルマンディーズ」など各地のレストランで2年間修行。 1987年帰国。
1988年 La Table de Com,ma開店時よりシェフを務める。健康と安全性を重視した野菜料理を提供する。『野菜の役割』(シェフシリーズ)、『素材を愉しむアイスクリームレシピ』(共著、柴田書店)など著書多数。

インタビュアー:下田ちひろ(海の精)