島田弘子さま

島田弘子さま

海の精大島製塩場 来訪日:2013.2.5-6

長年、正食クッキングスクールの講師をされている島田弘子先生。
体調を崩したことがきっかけで、食の大切さに気づき、西式の甲田療法を経て、マクロビオティックに出会いました。ご自身の経験や失敗談を伝えるとともに、「食や命の大切さ」を提唱されています。そんな島田先生は、講師以外にも、助産所での調理の仕事もされています。正食クッキングスクールだけでなく、その助産所でも「海の精」を使っていただいているとのことです。

今回は、島田弘子先生が、福井のネットワーク教室の野坂淳一先生とご一緒に大島製塩場を見学されました。

本物と感じた「海の精」

「無駄がなく、おしゃれでモダン」と島田先生にコメントいただいた海水を濃縮する塩田。

大自然の中で海から直接海水をとっている場所から見させていただいて、風だったり、日差しだったり、潮の香りや音だったり、五感で塩と触れ合えた気がしました。製法からもですが、私たちマクロビオティックの基本的な理念の中の「身土不二」、「一物全体」の意味をものすごく感じました。私のそれまでの想像と、塩作りの知識・理論が全身の感覚とひとつにつながった感じです。

「海の精」の作り方を見る前は、コンピューター制御で、すべてオートメーションになっているイメージでした。だけど実際は、本当に手作りという感じ。「海の精」のパッケージだけでは見えませんでした。良さはわかっていても、そこまでこだわっているとはわかりませんでした。やきしおのビン詰めをひとつひとつ手作業でしているとは、思いもしませんでしたから。そこに携わる、ひとりひとりの人の気が加わっている。人とのつながりが希薄なりがちな現代、ましてや生命の源という塩だからこそ、とても大切なことだと感じました。
塩田も写真で見ていると、近代的に作られたような感じがしていました。それも、実際に見てみると、近代的というよりは、無駄がなく、おしゃれでモダン。

本物、と言ったらだめなのかもしれませんが、まさしく本物ですよね。一物全体ということから説くと、本物。一切不自然なことはしていない、自然や宇宙の秩序に担った作り方だと思いました。大量生産のメーカーとはちょっと違う、決して自然を無視していません。大自然を敬う心を感じました。
そのうえ、その歴史の中で研究を重ね、伝統製法を超えるハイテクノロジーなその製法を知り、驚きました。

海の精は、温故知新、そのスマートさがとてもクール。今回見たものをすべて、多くの生徒に伝えたいと思いました。

料理は化学反応

正食クッキングスクールでは、「海の精」を使っています。
他の普通のお塩だとすぐ辛くなってしまいます。きつい、というのでしょうか。マクロビオティックでは、その人それぞれの感性で料理をするという意味で、塩を具体的にどれくらい入れるという言い方はしません。「海の精」は味が決まりやすいです。とても安定していて、おいしく仕上がります。素材とうまく調和する、と言うのでしょうか。

最近は、校長先生(岡田昭子先生)が塩の入れ方などを少しずつ研究されています。カリウムとナトリウムのバランスの中で、時間と塩との関係、材料と塩の関係とか。
今日のお話の中で、それぞれミネラルが結晶化されていく時間が違うと伺い、料理も同じだな、と。調理の中でも反応する時間が違って、時間という陽性さの中で徐々にバランスがとれていく、明らかに味が変わっていくのです。料理は、科学だと思います。

だから、塩というものに関して、ものすごく敏感になります。マクロのお料理は調味料をあまり入れないので、味を加えるというよりは引き出す料理。塩の入れ方や使い方、手で入れるということにも気を使っています。目に見えない世界ですが、本物に近い分、そういうものも生きてくると思っています。ですから、「塩を手で入れる」ということまでに、心を込めてほしいのです。

このお料理法、マクロビオティックを学ぶほどに感じるのですが、人にとって塩の大切さ、特に日本人にとっての塩のことや、調味料の大切さ、人間という生きものに合った食べ方など、そういうことは普通の料理教室では全然習いません。マクロビオティックでは当たり前のことでも、普通の料理教室ではもちろん、学校でも習いませんでしたよね。

調理師学校で目覚めた日本料理

高校を卒業して、フランス料理の勉強しようと調理師学校に入りました。背の高い帽子をかぶって、フランスに行きたい!と思っていました。
しかし、そこで目覚めたのは日本料理です。実習自体があまりなく、料理を見る授業がほとんどでしたが、旬の素材や盛り付けなど、すごい感性で最高の日本料理だったのです。そのころは日本料理の世界で女性が調理場に入るなど、大変に難しい時代で、関われても仲居さんくらいでした。だから、土井勝先生の料理学校に就職することにしました。

土井先生のところは3年ほどいましたが、先生の晩年の、一番面白い時代でした。
テレビの撮影などに同行したり、出版物の制作にも携わらせていただきました。カメラマンも最高のカメラマンで、色々と勉強になりました。
家庭料理のブームもあって、とにかく忙しかったのですが、その分基本をしっかりと学ばせていただき、実力がついたと思います。料理の世界は、とても厳しいです。上下関係も厳しいですが、若かったからこそ乗り越えられたと…。特に、厳しく怒られた先生ほど、よく覚えています。今、その先生には心から感謝しています。

「治るよ」と言った先生を信じて

その後、普通のOLになり、そのときの食生活の乱れとストレスで、病気になってしまいました。とにかく、近代・東洋医学など、ありとあらゆることを試してみました。投薬しましたが、薬の副作用で精神的にも病んでしまい、それなのに病気が改善する兆しはいっこうに見えませんでした。そんな折、ある人の紹介で甲田先生の病院に行くと、「治るよ」と、簡単に言われました。「ただしんどいでー。ついてこれるかー」と。散々やって治らないのに、治るよ、とひと言おっしゃった先生の言葉を、もう信じるしかありませんでした。

甲田療法では、玄米は粉にして、あとは青汁とニンジンのしぼり汁を食べます。毎日玄米の粉と青汁とで、体はがりがりになりました。周りの人が「痩せたね」と、言葉もかけられないくらいでした。

けれど、6ヶ月目で急に好転し、治らないと言われていたものが、甲田先生の言うとおり治ってしまったのです。
そこで、とても食事が大事だってことに気づき、もともと料理の仕事をしていたので、「料理を通してこの経験をお伝えしないと」と、もう一度料理の世界でやってみようと思い、同じく食で心身を変えるマクロビオティックを学び始めました。

「今」が大事

料理教室に入ったはいいものの、なんでも火を通すし、当初は「マクロビオティックってどうなってんだろう」と思いました。甲田療法では生ばかり食べていましたから。その頃は陰陽がまだよく理解できていなかったのです。
とりあえずはマクロビオティックを始めましたが、かたくなにやりすぎて、体と頭がばらばらになってしまいました。もう、どこを頼ればいいかわからなくなりました。始めてから6年7年経ってからのことです。いつの間にか“マクロ難民”になっていました。

それで、いったんマクロから少し離れることにしました。そんな矢先、今度は父が倒れました。父の看病の中で、毎日命と向き合っていたら、今までは理想があり「こうあるべき」とか「こうしなくちゃいけない」という思いがありましたが、そういうことではないのかな、と。そんなことよりも、もっと大切なことは何か、「今が大事なんだ」「今を生きる」ということを学びました。

考え方の幅が出たそんな折、再び正食協会から声をかけていただき、それには何か意味があるのかもしれないと思い、戻ることにしました。かたくなになりすぎて失敗した人もいるんだよ、ということを教えるのが私の使命なのかな、と思いました。講師になって、今年で12年目になります。

一人ずつが感じて、学ぶもの

人の命や生き方を左右するようなことを、「こうしなさい」と指導することは私にはできないと思っています。マクロビオティックは道であって、指導するものではないと。ひとりずつが感じて学ぶものです。する、しないはその人の自由。だからこそ、マクロを「教える」というよりは、「失敗することもあるよ。失敗はしたけれど、でもやっぱり無双原理・マクロビオティックはすごいんだよ」ということを、伝えられるようになれればいいなと思っています。マクロビオティックは、勉強して知れば知るほどに、「自然の摂理」です。原点は「宇宙」ですから・・・。これで考えていくと、必ず答えが見つかります。

講師に復帰した最初のうちは、失敗談ばかり言っていました。玄米が合う人と合わない人がいますし、噛める人と噛めない人もいます。もちろん玄米は理想的ですが、合っていないのに我慢してやり続ける人が多くて、逆にそれで体を悪くする人もいるのです。でも、そういう人は、「玄米がすべてじゃないよ」と言われるだけでもほっとするようです。人は皆ひとりひとり違うのだから、感性を磨き、判断力を持つことのきっかけを作りたいですね。

助産所でも「海の精」

助産所で、お料理を作っています。そこでは、大先輩の先生からずっと「海の精」を使われています。古くからマクロビオティックをされている方は、「海の精」をとても大切に使い続けられています。私が初めて海の精に出会ったのも、この助産所です。

助産所では、真っ暗なところで、畳の上で産みます。人間は生まれるときが大事。どういう生まれ方をするかで、その人の人生が変わってしまうくらいだと聞きます。
そして、大切なのは、その後の最初の母乳です。とにかく食べたものが血液となり、母乳になりますから、そこで食べる食事は良いものを使っています。主食は玄米、産んだ後は穀物菜食を基本とし、質のよい母乳を赤ちゃんに飲んでもらい、母体も労わります。産まれてからのこの数日間が、いろんな意味で母と子のとても大切な時間だと感じます。

これからも、「命の大切さ」を伝えていきたいと思っています。それは、何の命でも。今日は、お塩も命なんだなって。なぜ食べるのかって命をつなげることだから、そこを伝えていければなって思います。

熱心に話を聞かれる島田先生。

島田弘子(しまだ ひろこ)プロフィール

辻調理師学校卒業。
土井勝料理学校に就職し料理を教える。
その後OLになり、不規則な生活が続き体調を崩す。食の大切さに気づき、西式の甲田療法を経て、マクロビオティックの世界に出会うことになる。
現在、正食クッキングスクール講師。

インタビュアー:下田ちひろ(海の精)