<2>「海の精 あらしお」の物語

海の精 あらしお(国産)

「海の精 あらしお」170g 464円(税込)

“赤ラベル”と呼ばれてきた「海の精 あらしお」。塩運動の流れの中で、約30年前に復活された伝統海塩です。日本伝統の製塩法を継承しつつ、独自の工夫を加えてきました。その誕生秘話と製法や技術開発の過程をご紹介します。

塩運動の原点に立ち戻る

前回では天日海塩(ほししお)を開発することになった経緯をお伝えしましたが、実際につくってみて、日本で天日海塩がつくられてこなかった理由がよく分かりました。日本のように雨が多く湿度の高い地域では、天日海塩の生産は適地でなかったのです。どんなに品質が良くても、蒸発効率が悪く、実用的な生産量を確保するのは困難に思えました。

それで、天日海塩は理想の塩を求める研究として続けていくけれど、やはり塩運動の原点に立ち戻って、“まず伝統海塩を復活しよう”ということになりました。塩田で海水を濃縮したあとは、釜で煮つめて塩の結晶を採り出すわけです。その実験を繰り返して、1984年(昭和59年)に「海の精 あらしお」が誕生しました。

初歩的なものから研究を重ねる

海水を濃縮する工程は、「海の精 ほししお」で開発したネット式塩田をそのまま利用し、塩を結晶にする工程では、火を用いて釜を焚きます。これを製塩用語で「煎熬」(せんごう:煮詰めること)といいますが、大島で最初に建てた間伏工場で開発を始めました。

釜は、藻塩をつくっていた古代から使われてきた平釜を製作しました。底の平らな四角い形です。最初は実験なので、薪や椿のしぼりかすを燃やしていましたが、本格的な試験を始めてからは、安定的な火力を得るために灯油バーナーを用いました。

歴史的にもごく初歩的な装置から順次に試験しながら、自分たちの技術を習得していきました。また、品質的に理想の塩とはどういうものなのか、それを実現するにはどのような煎熬法がいいのか、研究を重ねて行きました。

初期の平釜で煎熬(せんごう)するようす

蒸気熱による技術革新

間伏工場で煎熬をしていたときは、ずっと直火でやっていましたが、どうも直火は熱効率が良くないと気がついたんです。煙とともに廃熱が相当に出て、予熱釜で回収しても、まだ無駄が多い。伝統製法とは言っても、熱効率の問題には近代技術を生かした方が得策だろうと思い、ボイラーがあった元町工場で蒸気熱による煎熬の試験を始めました。1994年(平成6年)のことです。

蒸気加熱に替えた大きな理由がもう一つあります。それは硫酸カルシウムの問題です。

硫酸カルシウムには、温度が上がると溶けにくくなるという性質があります。直火だと、炎が釜に当たる部分は何百度Cという高温になります。こうした強い熱が加わると釜に固く貼りついて、鉄ノミとハンマーで削り落とすしかないということになります。

ところが蒸気なら100度C、圧力をかけて熱を上げても120度Cくらいで、そんなに高温にはなりません。硫酸カルシウムが釜に固着することが防げるようになるわけです。それに圧力調整のつまみ一つで強くしたり弱くしたりして、温度調節が非常に簡単にできます。

蒸気釜は、調理に使うようなちょっと深めの丸い釜です。外側の3分の2くらいまでを二重底にして、その部分に蒸気を通しています。形は平釜でなく丸釜ですが、食用塩公正競争規約では「形状にかかわらず密閉されてない釜を用いて、大気圧で加熱蒸発」しているものを「平釜」と定義しています。

溶けるカルシウムを含ませる

単体ではほとんど無味な硫酸カルシウムですが、塩の味には重大な影響を与えます。塩の結晶にどれぐらい、どういう状態で含ませるかは大きな課題でした。

多すぎれば溶かしたときにいつまでも白濁しますし、もっと多いと不溶解分として沈殿してしまいます。また、塩分の薄いおすましには溶けても、塩分の濃い梅干だと粉が吹いたように、溶けきらないカルシウムが梅干に付着しても困ります。そうしたことを広く考えて、硫酸カルシウムの量は1.5パーセント前後を基準にしています。

平釜に入れる濃縮海水の濃度をどれくらいにするか。それで硫酸カルシウムをどのくらい含ませられるかが決まります。それから単一成分ではなく、主成分の塩化ナトリウムと混じり合った結晶にすることで、カルシウムが溶けやすい塩になります。

研究を始めたばかりのころは、カルシウムの含ませ方がよく分かりませんでした。でも蒸気熱に変え、経験も積んで、塩の結晶に含ませるカルシウムの量と状態をコントロールできるようになりました。

手間をかけてニガリ成分を残す

成分で重要なもう一つの課題がニガリ分でした。塩の成分は大きく分けて、主成分の塩化ナトリウム、それよりも先に結晶する硫酸カルシウム、そして塩化ナトリウムよりも遅く結晶し、液体状態でも含ませるニガリ分があります。ニガリ分の実体は、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムといった塩類です。

これらの成分をどれだけ塩の結晶に含ませるかを決めるポイントは、二つあります。

第一は、煎熬を止めるタイミング。つまり海水の濃縮を終える時機です。母液(塩が析出した後の残溶液)の濃度は比重計で測りますが、温度補正をして極めて厳密に行っています。

第二は、塩類のバランスを調えるために最終母液、すなわちニガリ液(苦汁)をどのくらい、どのように塩に残すかです。結晶の粒子が小さいと全体の表面積が大きくなり、ニガリ液を保持しやすくなります。採取した塩汁を攪拌することで結晶を細かくし、ニガリ液を安定して含むようにしています。

あらゆる用途に使える中純度塩

海の精あらしお」の味は、自分たちで塩自体の味を見たり、料理や食品加工に使ってみたりしながら決めてきました。と同時に、生物学的、生理学的、栄養学的にどういう成分の塩がいいのかを考え、また日本人が伝統的にずっと食べてきたと思われる明治初期までの塩の中で、おいしいと言われた塩の成分を基準にして、“食用最適塩”の品質条件を探求してきました。その成果をまとめたのが『知っトク情報! 正しい塩の選び方』です。

明治時代の統計によれば、そのまますぐに食用にできる高級塩が「真塩」で、塩化ナトリウム以外の塩類が乾燥重量比で4~7パーセントくらいの中純度でした。味覚的にも栄養的にも適当な純度で、あらゆる用途に常用できます。「海の精 あらしお」は、まさに中純度中の中純度を目指した塩です。

海水をそのまま結晶にした塩はニガリ成分が多すぎて、料理の味の調節がすごく難しいです。濃くすると、とても苦い。薄くすると、もの足りない。それでいて、食べ進むにつれて苦みとえぐみを感じるようになります。たくさん食べると、腸が敏感な人は下痢をしてしまいます。確かに地球の生命は海から生まれました。しかし、それは遙か昔の“古代の海”であって、現代の海とは成分が異なっています。その差を埋めるのが、ニガリ成分を調整する製塩技術なのです。

日本伝統の製塩技術をもとに、独自の工夫を追究して30年あまり! 塩運動が求めた“伝統海塩”は、ほぼ完成形になったと思っています。

【コラム】海の精の由来

1984年の「海の精」赤ラベル

1984年ごろより、正式に『海の精』という名称を使い始めました。本物の塩は「塩」であって、それ以外の何物でもない、という意見もあったのですが、やはり固有名称がなくては不便です。そこで皆で案を出し合った中で、使えそうな唯一の命名が『海の精』でした。

その心は、「海の精髄(エキス)」、「海の精気(エネルギー)」、「海の精霊(スピリット)」、「海の精神(ソウル)」といったところです。