<5> 「海の精 旨しぼり醤油」の物語

海の精 旨しぼり醤油(国産有機)

「海の精 国産有機・旨しぼり醤油」1L 1,890円(税込)

今回は、昔ながらの天然醸造法で1年以上じっくり発酵熟成させた「海の精 国産有機・旨しぼり醤油」。大豆の比率を多くし、さらに仕込み水の量を抑えた“十水(とみず)仕込み”で作った濃厚なもろみから、おいしいところだけをしぼった旨みのある贅沢な醤油です。「旨しぼり醤油」、玄米・麦・豆の生(なま)味噌3種の製造委託先であるヤマキ醸造株式会社の木谷(きたに)富雄代表(故人)に伺った当時の話や他の醤油との違いを交えながら、「旨しぼり醤油」をご紹介します。

醤油の会員配付

前回は、「海の精あらしお」が誕生してから、はじめて発売に至った海の精ブランド商品「玄米味噌」についてお伝えしましたが、「味噌」だけでなく、日本の食卓には欠かせない伝統調味料「醤油」の製造試験も開始しました。当時、仕込んだ醤油のもろみの様子を確認すると、伝統海塩「海の精」で仕込んだ醤油は、異常と思われるほど盛んな発酵が認められたそうです。

肝心の味は、当時の一般流通品より濃厚で、とても旨みがありました。しかも甘み、辛み、苦みなどのバランスがよく、さらに醤油をぬるま湯で割って味見をしてみると、一般流通品の醤油はどれか一部の味が強くなるのに対して、「海の精」で仕込んだ醤油にはまったくそれがありませんでした。この製造試験からも、「海の精」にバランスよく含まれる無機成分(ミネラル)が醤油の仕上がりに大きく影響することがわかりました。

満足できる結果が出たことから、この醤油を「生(なま)しぼり醤油」と名付け、塩と同様、“会員配付”という形で希望者にお届けすることにしました。売り文句には、その当時流通していた醤油の一般的な醸造法と違って、気温の変化を活かし1年以上じっくり発酵熟成させる天然醸造法であることや、火入れをしない“生(なま)”の醤油であること、さらには伝統製法では本来不要な糖類を加えていないことを掲げ、はじめは一人当たり2リットル入り×6本のみの数量限定で“会員配付”をはじめました。

希少な国産丸大豆

2017年現在、醤油の原料でもある大豆の国内自給率は、たったの7%。残りは輸入に頼っているのが現状です。海外産の大豆を原料とした醤油の中で、丸大豆使用の醤油は少なく、その多くは脱脂加工大豆が使用されています。脱脂加工大豆とは、大豆から大豆油を抽出し残ったフレーク状の大豆のことです。そして、なんと日本の醤油の75%以上がこの脱脂加工大豆を原料にしていると言われています。さらに、その多くに使われているのが遺伝子組み換え原料。醤油の大手メーカーでは原料コストが安価であるということの他に、丸大豆の加工は難しく、また大豆を蒸しあげる釜も持っていないという事情もあるようです。

消費者には「知る権利」と「選ぶ権利」があります。遺伝子組み換えが問題視されるようになって25年ほど経ち、現在では、味噌、豆腐、納豆などの商品パッケージに、遺伝子組み換え原料使用の有無の表示が義務づけられていますが、実はまだ、醤油や油には義務づけられていないのです。ヨーロッパではすべての食品に表示しなくてはいけないのに対して、日本は、遺伝子組み換えでない原料を使っている場合に「遺伝子組み換えでない」と表示することが認められているだけ。今はまだ国産大豆であれば、遺伝子組み換え技術が使われていることはないため、まずは、“国産”を選ぶことがはじめの一歩かもしれません。

日本の生産者を応援していく

大豆は国産というだけでも非常に希少ですが、“国産有機”ともなると、国内総生産量に対してたった0.45%しかありません。農薬、化学肥料、除草剤を使わないで大豆を栽培するとなると、収穫量も約3分の1程度になってしまうと言う関係者もいます。さらに、国産有機の麦類においては、大豆よりもさらに低く、たったの0.09%。これは麦類全体の数字で、小麦に限定するとさらに希少です。国産有機の「旨しぼり醤油」は、まさに「畑の宝」と言っても過言ではありません。

輸入原料が増え続ける中で、国産原料や国産有機原料を使い続けることは、日本の生産者を応援していくことでもあります。これからも、国産や国産有機の大豆と小麦、日本伝統の海塩「海の精」を使って海の精ブランドの醤油を仕込み続けることで、微力であっても日本の農業の将来につながればと考えています。

日本の四季が作り出す醤油

“き”醤油と“なま”醤油。生醤油は読み方ひとつで、実は違う醤油のことをさします。“生(き)”醤油とは、塩以外は何も添加していない醤油のことで、一方“生(なま)”醤油は、火入れを行わない醤油のことで、乳酸菌や酵母が生きているタイプと、醤油の再発酵を防止する目的で、膜ろ過(超高精度フィルターろ過)により、乳酸菌や酵母などの微生物や不純物を完全に除去する2種があります。(「海の精 生しぼり醤油」は乳酸菌や酵母が生きている醤油として発売し、2019年に火入れ醤油“低温殺菌・即冷”製法としてリニューアルしました。)

そして、醤油の味わいは、醸造方法によっても違ってきます。日本に流通している醤油の約8割を占める一般的な製法が“本醸造”で、原料を微生物の力のみで発酵・熟成させる方法です。ただ、中には熟成期間を短縮させるため、人工的に四季を作り出して熟成させる「加温速醸」という方法や、酵素により醸造を促進させる方法もあります。加温速醸は、熟成期間をおよそ3~4ヶ月にまで短縮できるので、本醸造の中でも大量生産する場合に多く用いられる方法です。

それに対して、“天然醸造”は、ゆっくりと四季の自然な寒暖の変化の中で熟成を行う方法です。昔から醤油や味噌などの伝統発酵食品は、冬に仕込むのが良いとされてきました。暖かくなるにつれて、まずは乳酸菌が活動し、pHが下がると、次第に酵母菌の活動がはじまります。そして春、夏と気温が上昇するにつれて、発酵は最盛期を迎えます。この醤油の醸造は、世界の中でも日本だけ。冬がないような暖かい国では絶対にできないし、南極や北極だと100年経っても、発酵は進みません。もちろん、暖かい部屋を作るなどをすれば技術的には可能ですが、自然の環境自体は決して作れないのです。

蔵元独自の醤油の味わい

味噌と同じく、先代より受け継いだ杉桶は、100年も前から使っている古いものもあります。新しい桶でも60~70年ほど前のもの。杉桶も長年使っていると、もちろん壊れることもあります。そんな時は箍(たが)を締め直したり、漏れが生じた場合は杉の皮を詰め込んで直したりと、すべて手作業で修理しています。そして、この杉桶には、長い年月を経て育まれた微生物が住みついており、これこそが他にはない蔵元独自の醤油の味わいを作り出します。

桶それぞれに個性があり、湿っていたり、乾いていたり、桶の内側の菌のつき方も様々で、桶ごとに出来上がるもろみの味も違ってきます。そこで、熟成したもろみをブレンドする「もろみ合わせ」を行うことで、一年を通して、安定したおいしさを供給しています。

 “旨”しぼりの魅力

発酵・熟成後は、出荷前に「火入れ」を行うことで、たんぱく質・糖分を安定化させて成分の変性、味の変化を抑えます。火入れした醤油の色合いは濃い茶色で、香りが強く、一般的にはキレのある味わいが生まれるのが特徴です。また、特有の醤油臭は“火香(ひが)”と呼ばれ、火入れ殺菌するときに生じます。

長年にわたり多くの方々にご愛用いただきました「生しぼり醤油」は、製造元における食品安全マネジメントシステムの国際規格であるFSSC22000の取得により、生(なま)醤油の製造を断念せざるを得なくなり、現在は「火入れ」を加えた「旨しぼり醤油」としてリニューアル販売しています。

生(なま)タイプのまま継続販売が可能な膜ろ過製法も検討しましたが、満足できる味わいとは程遠く、火入れした試作品の方が格段においしい仕上がりだったことから、「生しぼり醤油」のおいしさを最も生かした“低温殺菌・即冷”製法による火入れをすることにしました。しぼりたての生揚げ醤油の風味と、火入れにより生まれた香ばしく、深みのある芳醇な香りが広がります。旨み成分(窒素量)は約1.66%で、等級は特選レベル。塩水の代わりに醤油で仕込む再仕込み醤油の特級レベルに匹敵する旨み成分があります。

このように、一般的な醤油との違いとともにお伝えしてきましたが、「旨しぼり醤油」には様々な価値が存在します。国産有機原料・伝統的な製法・コクのある旨み、すべてにおいてこだわった「海の精 国産有機・旨しぼり醤油」をこれからもお届けしていきます。