<7>油脂について

穀物と野菜が中心の伝統的な和食には、植物性のなたね油やごま油が合います。
天ぷら油やサラダ油のように、用途が油の名前になっているものは、いろんな精製油が混合されているため、避けた方が無難です。また、油を効率よくしぼるために、溶剤などの化学薬品を使ったものがありますが、安全面で心配が残ります。値段は高くなりますが、原材料のはっきりと分かるもので、伝統的な圧搾絞りの油を選びましょう。そうした油は、香りがよく、油そのものに旨みと風味があり、コクのある料理に仕上げてくれます。

近年、使われるようになったオリーブ油やエゴマ油は、料理の幅を広げるために、ときどき使うのが良いでしょう。どれくらいとるかは、何を食べているかで大きく違ってきます。
玄米食ならば、米の皮に油が含まれているため、それほど油をとる必要はありません。それに油の多いおかずはおいしく感じられないはずです。

分づき米の主食に、植物性の副食の場合は、素材に含まれる油が少ないので、玄米食よりも積極的に油をとる必要があります。味覚的にも油を使った方がおいしく感じられます。
動物性食品が多い食事では、それ自体に脂が含まれますから、やはり油は少なめで良くなり、野菜をたっぷりとって、その消化を助ける必要が出てきます。
主食やおかずのバランスから、胃腸に負担なく、おいしく食べられる油脂の量を判断しましょう。揚げものがあれば、消化を助ける大根おろしや生姜を添えたり、炒めものがメインなら、おひたしや漬けものを添えるなど、一食の中でバランスのとれた献立になるよう工夫しましょう。

脂質の役割

私たちの体をつくり、動かすためのエネルギー源となる栄養素は三つ。穀物に主に含まれる糖質、植物や動物に含まれるたんぱく質と脂質です。これを三大栄養素と呼びます。脂質は、人間が生命を維持していく上で欠くことができない栄養素の一つです。

ただ、穀物が主食として食べられる場合、穀物をエネルギー源とするのがベストです。というのも、糖質をエネルギー源にするのが最も効率が良いからです。たんぱく質や脂質をエネルギー源にする場合、さまざまな分解工程が必要で、そのために多くの老廃物が出て、肝臓への負担も大きくなります。

ではエネルギー源にしなければ、とる必要がないかというとそうではありません。脂質は単にエネルギー源になるだけでなく、性ホルモンや細胞膜の大部分を形成する原料として、また体を正常に保つために必要なホルモンをはじめ、体内調整物質の原料としてもなくてはならない栄養素です。とくに新陳代謝の活発な成長期の子どもには、細胞の機能を正常に保つ必須脂肪酸の摂取が大切です。不足すると、脳の発育が遅れたり、皮膚や臓器などにさまざまな障害が現れると言われています。

脂質の役割を知って、適度においしく油脂をとりましょう。

いろんな油脂

脂質を含む油脂にはさまざまな種類がありますが、「油」は植物性油のように液状のものを、「脂」は肉や魚の固形のものを表しています。

油脂の主成分は脂肪酸で、植物油も動物脂も、1つのグリセリンに3つの脂肪酸が結合したものです。脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。

飽和脂肪酸は、主に固形で乳製品や肉などの動物脂肪に多く含まれており、主にエネルギー源の役目を果たします。ラードなどの動物脂は、酸化しにくく安定しているため、揚げものに重宝されますが、とり過ぎると中性脂肪や悪玉コレステロールを増やします。また動物脂は融点が高く、腸内での吸収が悪く、消化吸収率が低いです。また肉・卵・乳製品に含まれる脂は、目に見えない脂で、知らない間に摂り過ぎていることもあり、注意が必要です。伝統食育の観点からも、栄養面からも、肉・卵・乳製品は、たまにごちそうとして食べるぐらいが良いでしょう。

不飽和脂肪酸は、常温では液状で、植物油に多く含まれます。体内の細胞膜の大切な構成成分で、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などがあります。リノール酸やリノレン酸は、人間の体内でつくることができず、食物からとる必要があり、必須脂肪酸と呼ばれています。

油脂の選び方

油脂については、さまざまな研究があります。かつてリノール酸が健康によいとその摂取が薦められていましたが、近年の研究ではその効果に疑問が持たれています。摂取量の目安は1日1~2gで、ごはんを2杯半食べればまかなえて、食べもので十分とれます。ところが現代人はその10倍以上摂取しており、リノール酸のとり過ぎの害が問題視されています。

このように良いと考えられていたものも、研究が進むと、全く逆の結論が出たりします。いま注目されているアマニ油やエゴマ油は、α-リノレン酸の含有量がずば抜けて多いため、健康によい油とされていますが、熱、光、酸素に反応しやすく不安定で、加工や保存性が悪く、変質しやすいです。そのため冷蔵保管して、生食調理でとります。また他の油に比べて高価で、日常的に家庭で利用するには難点があります。

こうしたことを考え合わせると、伝統的に食べられてきた、なたね油とごま油がおすすめです。穀物と野菜が中心の伝統的な和食にも合います。なたね油は脂肪酸のバランスがよい油です。ごま油には抗酸化物資のセサミノールが含まれても、それ自体が酸化しにくいだけでなく、活性酸素による過酸化脂質の発生を防いでくれます。風味づけにも役立ちます。

日頃はこの二つの油を使い、ときどき料理の幅を広げるために、オリーブ油やエゴマ油を使うのが良いでしょう。

健康への関心が高い現代では、ヘルシー感を売り物にした植物油がたくさん出ています。原材料名だけを見ると「なたね油」とか「大豆油」といったシンプルな表示に、思わず安心してしまいますが、大切なのは原材料だけでなく、作り方です。

もともと油は種子や果実、穀物を単純で伝統的な機械で絞って取りました。ただこれでは生産量がごくわずか。そのため物理的に絞るのではなく、大がかりな機械と、数々の化学薬品を使って、化学的に抽出するものができました。価格はグッと安くなりましたが、残留薬品や油そのものの変質など、その安全性には疑問が残ります。

やはり健康と安全・安心を考え、昔ながら圧搾法でつくられた油を選びましょう。値段は高くなりますが、圧搾法でつくられた油は、香りがよく、油そのものに旨みと風味があり、コクのある料理に仕上げてくれます。原料となる菜種やごまもできるだけ国産の安全なものを選びたいものです。